『品川猿』では、言葉をしゃべるサルが登場します。
そのサルはオスで、人間の女性に性的な興味を抱くとのことでした。
しかし、女性を性的な対象にするといっても、種族が違います。性的な関係はおろか、親密になることすらできません。
そこで、サルは、女性の身分証を盗み、「念力」を使って、名前を盗むということを覚えました。
この辺りが、村上春樹さんっぽいですよね。
名前を盗むとどうなるかというと、女性は名前を時々度忘れしてしまうようになるそうです。
サルは、女性の名前を盗むのを「悪行」と表現し、ドーパミンが関係しているのではないかと言います。
そして、7人の女性の名前を盗んだ後に、改心し、きっぱりと名前盗みはやめ、田舎の旅館で働いているとのことでした。
しかし、しばらくした後に、ある女性が免許証を盗まれてから名前を思い出しにくくなるという事態が起こります。
そのサルが、再び名前盗みをしてしまったのではないかと暗示する形で、この短編小説は終わります。
読んでみて思ったのが、
- 「悪行」と自分で表現していること
- 「きっぱりやめた」という決別宣言
- 名前という抽象的なものではあるけれど、なにかを奪う暴力的な行為
- 性的な対象に対して行う行動
このあたりの特徴が、まさに性の問題行動なんですよね。
そして、この小説はバッドエンドです。スリップ・再発してしまっていますからね。
きっぱりやめるために、田舎の旅館で働くというのが、サル自身では解決したつもりだったのかもしれないですが、それではダメだったようです。
とても、示唆に富む短編小説でした。
皆さんも興味があればぜひお読みください。
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