治療中に陥る”マンネリ”
依存症の通院治療が順調に進むと、受講者はマンネリ化してくるそうです。治療の目的は再犯防止であるはずが、いつのまにか、医療機関スタッフに褒められることや上手に課題をこなすことに注視してしまいます。やがて、マンネリ化の中から慢心が生まれ、保護観察や執行猶予の終了、就職といったタイミングで通院を中断してしまいます。
性犯罪者は再犯の危険が高く、5年以内に再犯してしまう確率は20.7%となっています(犯罪白書 平成27年版)。このような高い再犯率の中で治療を中断していいわけがありません。
いつまで通院すればいいのか
本書には治療の目安は3年と書いてあります。「目安」となってしまうのは個人差があるから当然だと思います。3年間プログラムを受講すれば良い人もいれば、再犯リスクが高く生涯にわたって通院が必要な人もいるだろう。
ここでは本当に3年治療したらいいのかを論じていきます。
犯罪白書平成27年版によると、再犯期間(刑事施設を出所してから次の犯行日までの日数)は上記の通りです。
痴漢型は287日を中央値(再犯期間のド真ん中)として、だいたい150日から900日の間(オレンジ色の箱型領域)で再犯する人が半数以上です。痴漢型以外も、半数の人が、再犯期間150日から900日に入っています。
つまり再犯の危険が減ってくるのは900日後と言えそうです。900日から少し余計に日数を加えて1095日、つまり3年が治療の区切りと考えて良さそうです。本書の著者である斎藤氏の提言も3年なので一致する結果となりました。
もちろん、3年を過ぎても、約4分の1の人が再犯しているので、そこは留意してほしいです。
ちなみに、自分は3回逮捕されているので、再犯可能性は非常に高いと思っています。自分の再犯可能性は20.7%より高いと思います。だから治療を3年で中断する気はありません。状況が許せば一生涯精神科に通院するつもりでいます。
おわりに
結局のところ、再犯防止というのは、複雑です。犯罪に頼らないで生きてけるような環境を自分自身で作る必要があります。誰かと住んだり、困らない程度に金を稼いだり、相談できる人がいるといいですし、ストレス解消法も複数あるといいですね。
そして、犯罪というのがいかに卑劣な行為かを感じる必要があります。被害者への共感や、ショックを受けた家族への共感が求められます。
また、犯罪をしてしまった自分自身というのを熟知する必要があります。ストレスをためやすいとか、人間関係の構築や維持が下手くそだとかを知らなくてはいけません。
本書は再犯防止に向けて動き始めた人にたくさんの助言をしてくれると思います。
最後に、本書で一番印象に残った箇所を引用します。
回復がはじまると、彼らは謙虚になります。痴漢をする男性の多くは人間関係を苦手とし、そこでのつまづきが暴力行為の遠因となっていました。コミュニーケーションが不得手で他者を尊重できない性質が、ストレスのはけ口を弱い者に求め、相手を征服、支配したいといった形で露呈したのが痴漢行為でした。そんな彼らが相手の心身の領域を侵さずにコミュニケーションが取れるようになると、私たちはその内面の変化を感じます。
『男が痴漢になる理由』斎藤章佳 イースト・プレス
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