SM(サドマゾキズム)

スポンサーリンク

定義

サディズムもマゾキズムも、苦痛との関連によって(苦痛を与えたり、苦痛を受けたり、そうした行為を空想することによって)性的満足を得るものである。時には一人の人間が同時に、あるいは時間を変えてサディストであったり、マゾキストであることも多い。そこで両者をまとめてサドマゾキズムSadomasochismと呼ぶ。

サディズムは『美徳の不幸』『ジュスチーヌ』などを書いたフランスの貴族マルキ・ド・サドMarquis de Sade侯爵の名前に、マゾキズムは『毛皮のヴィーナス』などを書いたオーストリアの貴族マゾッホLeopold von Sacher-Masochの名前にちなんでクラフト・エビングが命名したものである。

ヒトの性行動や空想の中には、性と苦痛は豊かな関係を持っているので、サドマゾキズムに関して異常と正常との境界線をどこに引くかについて決めるのは困難である。

キンゼイの報告によれば、男性の22%、女性の12%がサドマゾキズム的な物語によって性的な興奮を感じ、25%の男女が「愛咬love bites」によって性的に興奮すると回答した。ハントによれば、男性の10%、女性の8%がパートナーとのサドマゾキズム的な活動によって性的快感を得ていると答えた。

DSM-5によると、診断基準は下のようになっている。

(性的マゾヒズム障害〉

  1. 少なくとも6ヵ月間にわたり、辱められる、打たれる、縛られる、またはそれ以外の苦痛を受ける行為から得られる反復性の強烈な性的興奮が、空想、衝動、または行動に現れる。
  2. 同意していない者に対してこれらの性的衝動を実行に移したことがある。またはその性的衝動や空想のために臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、またはほかの重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

(性的サディズム障害〉

  1. 少なくとも6ヵ月間にわたり、他者への身体的または心理的苦痛から得られる反復性の強烈な性的興奮が、空想、衝動、または行動に現れる。
  2. 同意していない者に対してこれらの性的衝動を実行に移したことがある。またはその性的衝動や空想のために臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、またはほかの重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

サドマゾキズム的な行動の具体的内容には、言葉による辱めや、支配ー服従のような象徴的行動(恥ずかしい姿勢を強要する・されるなど)から、卑しい不潔な行為を強いる強いられるといった現実の役割演技、さらには縛る、鞭打つ、刺す、切る、傷つけるなど、後に深刻な障害を残したり、時には死に至らしめるような物理的暴力に到るまで様々である。

起源と心理

動物行動学者は、性行為の前に闘争や苦痛をもたらす行動が見られるところから、この「前戯」が血圧上昇・過呼吸・緊張などの交感神経緊張状態を作り出すのに役立っていると推測する。男性ホルモンの量と攻撃性との関連から、男性性とサディズムとの関連を示唆する初見もある。

従来、サドマゾキズムの研究は犯罪者の精神鑑定や臨床を対象として行われることが多かったため、深刻な情緒的障害や対人関係の障害が強調されてきた。一方、パートナーと合意の上でサドマゾキズム的な行動を習慣的に行なっている非臨床的集団に対して面接調査を行ってきたワインバーグらの報告によると、非常に激しい苦痛を伴うような行為(ヘビーSM)においても特別の精神障害が認められることは稀であるという。彼らは「性的な高揚を求める手段の一つとして、自由意思によって相互の同意に基づいて、その行為を選択している」。彼らのSM行動の中には、①支配と服従、②役割演技、③合意、④性的意味合い、⑤相互的定義づけという5つの社会的特性を抽出することができる。例えば、紐、縄、ロープ、鎖などによる縛りは、一方の人の自由を束縛し、性的にも物理的にも、他方の意思のままになる状態と化す行為であるが、これは典型的に上記の5つの条件を満たしている。

サドマゾキズムの形成についてのいくつかの理論のうち、近年では、幼児期・青年期における苦痛と条件付けを強調する論文が多い。たとえば、自慰を叱られて尻を叩かれたことがマゾキズムの原因になる、などという説明である。

亜型

快楽殺人

殺人そのものが性的興奮と満足をもたらすものである。殺害後に屍体の解体(乳房・性器・四肢・首などの切断や会陰部の切開など)を行う場合もあり、残虐な屍体損壊が見られる場合がある。快楽殺人は必然的に連続殺人に導くものである。

屍姦

性対象の異常である。屍姦の症例である軍曹ベルトラントは、始めは動物を虐殺すること、動物の屍体を解体しながら自慰を行うことによって強い興奮を経験したが、後には埋葬された屍体を発掘してはこれを弄ぶようになった。最後には発掘した屍体と性交して、「生命のある女性から受ける快楽とは到底比較しようもない強烈な快感を得た」という。屍体の一部(性器、乳房)が行為者にとってフェティッシュになることがある。

流血サディズム・流血マゾキズム

自分の肉体もしくは異性の肉体から流血を見ることによってオーガズムに達したり、性交が可能になったりする。日本の切腹も流血マゾキズムとする考えもある。

婦女汚損

雑踏や満員電車などで女性の衣類を刃物で傷つけたり、薬品や精液・汚物をかけて汚したりすることに興奮や快楽を感じる。

動物サディズム

動物に対する虐待・屠殺・解体などによって性的な興奮や満足を絵得るものである。状性欠如型の精神病質などの幼年時代によく見るエピソードであり、神戸連続児童殺傷事件(酒鬼薔薇事件)や先述の軍曹ベルトラントは動物サディズムが一連の事件の背景にある。

コメント