『人はなぜ依存症になるのか 自己治療としてのアディクション』は古典的な名著とされる本です。
2008年に発売された『Understanding addiction as self medication』の翻訳です。
2013年に松本俊彦先生が翻訳しました。
以下、本書の要点をまとめます。
要点
- 心理的な痛みこそが依存症や嗜癖行動の中心的問題である。困難や苦悩を抱えた人は、その物質や行動が(一時的ではあるが)安らぎをもたらすことを発見してしまったがゆえに、依存性物質や嗜癖行動に頼らざるを得なくなっている(自己治療仮説)。
- 依存症を抱えている人は、決して手探り次第に「気分を変える物質や行為」に手を出しているのではなく、困難や苦悩を緩和するのに役立つ物質や行為を選択している。
- 依存の成立に必要な報酬は、物質がもたらす快感やハイな気分だけに限らない。どう考えても苦痛としか思えないような破壊的な行動さえも、それが「説明可能な苦痛」であるがゆえに、「説明困難な苦痛」から意識を逸らすのに有効な場合がある。
『依存物質や依存行為があなたに何をもたらしたのか?』と本書では問いかけます。物質や行為がある意味で救いとなっているという側面に目を向けているのが本書だからです。
感想
依存行為をやめるのは簡単ですが、やめ続けることは難しいです。その理由が本書を読むとわかります。
それは、依存症者は困難や苦悩を緩和する物質や行為を選択し、「今この瞬間」を生き延びてきたからです。一時的に断薬や断酒に成功しても、「根本にあった困難や苦痛」が解消されなければ、断薬や断酒をし続けることが難しいのです。
依存症のデメリットとして、違法薬物で不快感がでたり、過剰飲酒で二日酔いになったり、犯罪行為をして逮捕されてしまう、というのがあります。このデメリットも、本書によると主観的苦痛の緩和という点ではメリットがあると書かれています。
自分には理解できない不快感を、自分がよく理解している依存物質や依存行為が引き起こす不快感へ置き換えることは、コントロールできない苦悩をコントロールできる苦悩へと変えている、と筆者は主張しています。
私は「もう破滅してやる」という気分で問題行動を起こしたことがあります。そのような一種の破滅願望は、苦悩のコントロールでもあったわけです。
ドーパミン、報酬系といったキーワードで依存症と向き合うときも多いですが、時にはこのような書籍を参考に徹底的に心理学的な側面から依存症と向き合うのもいいですね。
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