この『東京八景(困難の或人に贈る)』は太宰治の短編小説です。
主人公は32歳の太宰治自身であり、彼の身に起こったことが、ほとんどありのまま真実として語られています。
前半は太宰の生涯において最も暗かった時期のことが綴られています。
元妻H(小山初代)の不倫の事実を聞かされたり、元妻Hと無理心中を企てたりしました(未遂)。
パビナール中毒で入院という辛い経験も経験しています。
大雑把にこの小説の前半をまとめると、悲しい出来事があったのは事実ですが、希死念慮などもあり、どこか自己破滅的です。そして、その破滅していく様をわざわざ小説にして、読者に公開をしてしまうあたり、自己憐憫の塊といいますか、被害者ポジションの中に籠っていたともいえます。
一方で、後半は自信を取り戻し、前向きになります。
そこで、書かれている一文がとても印象的です。
この一文が素晴らしくて、私はブログで取り上げたいなと思た次第です。
その一文とは、こちらになります。
人間のプライドの窮極の立脚点は、あれにも、これにも死ぬほど苦しんだ事があります、と言い切れる自覚ではないか。
「東京八景(困難の或人に贈る)」太宰治
苦しんだ出来事があるときに、「それは苦しい出来事なのではなくて、成功の途中なんじゃないの?」と他人に言われたら、ムッとすると思います。しっくりこないでしょう。
一方で、自分自身で「ああ、この苦しい経験が、自分の成長につながるんだ」と捉えられたら、それは素晴らしいことです。
太宰治もその境地に達していたのでしょう。
「あれにも、これにも死ぬほど苦しんだ事」を乗り越えて、プライドを手に入れたのです。
「人間のプライドの窮極の立脚点は、あれにも、これにも死ぬほど苦しんだ事があります、と言い切れる自覚ではないか。」
という文章はとても印象に残るいい文章だと思いました。
この短編小説は、辛いことがあって悩んでいる人、性犯罪加害者で前科に悩む人、性犯罪加害者で人間関係が崩れてしまった人におすすめです。
救いようもないどん底から回復する筆者と自分を重ね合わせで、楽しむことができる短編小説だと思います。
著作権が切れている作品なので、下記リンクから全文を読むことができます。
是非読んでみてください。
紙で読みたい方は、こちらの本で読むことができます。
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