『うつ病九段』レビュー

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とてもおすすめの本です。

わずか179ページとすぐ読める分量(めちゃくちゃ薄い本です)なのですが、内容がとても興味深かったです。

本書は、著者で将棋の棋士である先崎学さんが書いた「うつ病闘病記」です。

先崎学さんは2017年9月1日から2018年3月31日まで「一身上の都合により」全公式戦を休場しました。

その、棋士としての空白の期間について、ご本人が綴っています。

うつ病になってから、将棋界に復帰するまで(2017年6月23日から2018年3月まで)の約8か月のことが書かれています。

本書の見どころ

闘病記ということですが、実際には本書にもある通り、「基本的に横になっていました、散歩しました、将棋のリハビリを頑張りました、気が付いたらほとんど治りました」というものです。エピソードらしいエピソードはありません。

しかし、そんな単調な日々になるのが精神疾患の治療であることは私も承知しています(私もマクドナルドで読書するかデイケアに行くかだけの単調な夏を過ごしました…)。

この本の本当に貴重なことは、著者の内面が著者の口から語られていることです。

  • 調子が良くなってきたら、タブレット端末でエロ動画がみれるようになってよかった。
  • 喫茶店でアイスコーヒーをぶちまけてしまったが、事態を飲み込むことができず呆然と立ち尽くしてしまった。
  • 日光を浴びるのが良いと聞いてから、日陰をさけて散歩するようになった。
  • お金のことが心配になった。株・証券を一部手放した。
  • 決断・判断ができなくなった。簡単な詰将棋もできなくなった。
  • 活字が読めなくなったが、下衆なエロ雑誌の記事はなんとか読むことができた。
  • 自分のことを卑下してしまう傾向にあったため、「みんな待ってます」という言葉が嬉しかった。
  • 写真撮影の時に、自分だけ”のけ者”にされて無性に腹が立って、家に帰宅してから暴れた。

こういった、ひとつひとつの当事者が語るエピソードは本当に貴重だと思います。

私はうつ病ではありませんが、性依存症という病気で闘病しています。

逮捕される前までは、バリバリ働いていた自分が、無職となりデイケアに通院し始めました。

精神の病気にかかったこと、無職となって治療に専念したこと、そういったことが著者と私の共通点でした。

また、本書を面白くしたのが、精神科医である兄の存在です。お兄様は、高名な精神科医で、弟である先崎学さんのサポートをします。

「必ず治ります」という短いラインがお兄様から毎日届いたというエピソードは、非常に考えさせられました。

次のページでは、「将棋が弱くなりたくない」という先崎さんの気持ちや、「精神疾患への偏見」という本書で提示されていたテーマを扱います。

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